ケノラ書記長の手記


 ツェライは今日も乾いた風が都市の端から端まで吹きすさび、泳ぎ疲れた観光客の体を乾かしている。このツェライが単なる行政都市であるところから、観光産業を興して世界に知れ渡る都市にしたのは私の功績によるところが大きいと自負している。24歳で党から除籍されてからも自棄にならず、多少の手荒い手段はあれど真っ当にやるべきことをこなし、33歳で党員に復帰した。歴代の書記長とは違い私兵すら持たない。※1

 この国の変化の象徴であると、清廉な首長であると国民に支持されてきたはずだ。ところがどうだ、私は今、その観光産業のことで追及を受けている。ツェライ区知事時代の資産の動きに不自然な箇所があるというのだ。関連企業の数字も微妙な齟齬がある。どういうことかと目を剥いたが、調査すれば何のことはない、特殊災害の被災地域に関わる箇所を中心に、数値が変動し続けているのだ。

 国際会議中、先端諸国では被災地域に最も近い、災害前線国家として対応を求められ、また注視されているが、調査団の派遣と国内における事例研究以上のことは今のところ望めない。調査団の派遣に関しても、まるで決死隊だと国内から批判が高まっている。被災地域が拡大している以上、勿論座視などできはしないが、あの特殊災害のに講ずる手段というのが殆ど不明であるのだ。今のところ、ウクーツェの空燃研究所とンスクラ大学の合同研究チームが最も良い成果をあげており、党としても支援を惜しまないつもりだ。

 国内では特殊災害を不正の隠れ蓑にしているのではないか、との声もあり、不本意ではあるがその対応もしなければならない。

(空白)

 私の目がおかしくなったのだろうか?ビルの切れ間から夜が押し寄せてくる。街はそれぞれに動いて広がったり縮んだりして、市民が泣き叫んでいる。

 あらゆる端末が機能しない。防犯機能が不具合を起こしたのか、部屋に閉じ込められた。以降手記に記録する。

今11は

(ページの途中であるにもかかわらず、一度文がここで途切れている。次のページに新しく文章が続いている)

民が泣き叫

んでいる

特殊

これはまるで特殊

この時点で発生したとみられる

の時点で発生したとみ

馬鹿な

時刻は昼頃を示しているが、

あたりは不自然な

(文章はここで終了している。第一特殊波状災害終結後、国際会議により調査団がツェライ含むスェジニーヤ国内各地に派遣されたが、ケノラ書記長含むスェジニーヤ国民の8割超が行方不明となった。最終的な被害は18万人の死者と2708万人の行方不明者、南部諸地域の不可逆的な壊滅となり、経済的損失と関連被害の規模は現時点で想定できない)

※1 ケノラ書記長は党員時代、歴代書記長と同様に私兵集団(東部スェジニーヤ語では”ドゥクテ”、西部スェジニーヤ語では”フーテ”)を率いた敵対勢力との紛争で功績をおさめ、しかし独断専行が過ぎたために、主流派の意向で一度党を除籍されている(後の内戦危機に際して復帰)。歴代書記長と異なるのは、自ら率いる私兵集団を曲がりなりにも国軍の傘下として編成し、「制度的には私兵ではない」とした点である。


付記:mat地域の地理的不一致が報告された。

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